DDSの概要とDDS抗がん剤の可能性
国立がん研究センターと株式会社島津製作所のチームが「質量顕微鏡」という日本で開発された装置を用いて、DDSを応用した抗がん剤が、がん組織に長時間、集中してとどまっている様子を画像化することに成功した。
(画像はプレスリリースより)
今回の研究成果によって、当初の創薬コンセプトの通り、DDS抗がん剤が通常の抗がん剤よりもがん組織に多く長く集まること、かつ正常組織にはほとんど移行しないことが明らかとなった。
DDS(ドラッグデリバリーシステム)は、薬剤を体内の狙った部位に効果的なタイミングで集中的に送り込むという技術であり、治療効果を高めつつ副作用を減らしていける投薬方法として注目されている。
NK105はパクリタキセルをナノ粒子に内包したDDS抗がん剤であり、転移・再発乳がんを対象に第III相臨床試験が行われている。パクリタキセルの副作用には手足のしびれ・痛みなどの末梢神経障害が挙げられるが、悪化すると患者のQOLが著しく低下するため、効果が認められても治療を中断しなくてはならない場合もある。
NK105はがんに集まる抗がん剤として設計されており、効果増強や副作用の軽減が想定されていたが、これまで実際の薬剤分布を視覚的に直接確認するには至っていなかった。
同研究は英科学誌Nature姉妹誌のオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」誌に10月25日付けで掲載されている。
実用化を目指す展望
国立がん研究センターと島津製作所は2011年に包括共同研究契約を結んでおり、世界をリードするがんの高度先駆的医療技術の開発を目指している。今回の研究結果は、包括契約の目標のひとつである「創薬プロセス革新のための薬物動態解析」の成果であるといえる。
国立がん研究センター新薬開発分野の松村保広分野長と安永正浩ユニット長は、このDDS抗がん剤について、乳がんや胃がんなどで広く使われている抗がん剤パクリタキセルをナノメートルサイズの微粒子に封入した「NK105」であり、日本化薬が実用化を目指して転移・再発乳がんを対象とした臨床試験を進行中であると述べている。
同チームは、今後も緊密な連携を図りつつ、より効果的で副作用の少ない、患者にやさしい抗がん剤開発に取り組んでいくことを明言している。

独立行政法人国立がん研究センター東病院 プレスリリース
http://www.ncc.go.jp/jp/information/