有害事象ビッグデータから副作用の分子メカニズムを解明
2016年5月23日、京都大学薬学研究科・博士課程長島卓也、金子周司教授らの研究グループは、米国公開の医薬品有害事象ビッグデータと、生体分子のシグナル伝達経路や遺伝子発現データベースによる解析で、副作用の分子メカニズムを説明する仮説を導き、それを動物実験で実証する新しい試みに成功したことを発表した。
医薬品は薬効の他に、有害な副作用を起こす場合がある。これを専門的には有害事象と呼び、現在、臨床で起こったあらゆる有害事象が何百万件ものビッグデータとして蓄積され、公開されている。
研究成果
研究グループは、世界で最も大きな有害事象データベース・米国FAERSのビッグデータから、非定型統合失調症治療薬であり、重篤な糖尿病につながる高血糖を起こすことが知られている、クエチアピンについて、高血糖を軽減させる別の医薬品を探索し、最も有力な候補としてビタミンDを見出した。
動物実験において活性ビタミンD誘導体は、クエチアピンによる高血糖を軽減させ、そのメカニズムはインスリン抵抗性に基づくものであるとわかった。次に、クエチアピン投与によって発現変動が起こる遺伝子を絞り込むと、共通する作用点の候補分子としてホスファチジルイノシトール三リン酸キナーゼ(PI3K)が挙がった。
PI3Kのクエチアピンによる発現低下がビタミンD併用によって上昇に転ずること、更にクエチアピンが引き起こすインスリン抵抗性が、ビタミンDによってPI3K系を活性化すると改善されることがわかった。
今後への期待
今回の研究により、医薬品有害事象のビッグデータと、生体遺伝子の発現や代謝データベースを組み合わせて仮説を導き、動物実験で実証するという流れが、既に市販されている医薬品の異なる適応症への展開による、有害事象の軽減や回避につながることが期待される。
(画像はプレスリリースより)

京都大学 研究成果
<a href=" http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/documents/160523_2/01.pdf" target="_blank"> http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/</a>