キラルケイ素医薬品の開発に向けて
2016年4月4日、九州大学先導物質化学研究所・友岡克彦教授、井川和宣助教らの研究グループは、不斉ケイ素原子を有するキラルケイ素分子の効率的な不斉合成に成功し、合成したキラルケイ素分子が特異な生理活性(セロトニン受容タンパクに対する結合活性)を示すことを発表した。
背景
分子の中には、鏡像異性体を有するキラル分子が数多く存在し、その多くは分子内に不斉炭素原子をもっている。鏡像異性体は生体内で異なる機能を示すことがあるため、キラル分子を医薬品として使用するには一方の鏡像体のみを選択的に合成する、不斉合成を行わなければならない。
ケイ素は生物の体を構成する炭素と同族の元素であり、砂や石の主成分として身近に存在することから、毒性はほとんどないが、不斉ケイ素原子を有するキラルケイ素分子は自然界には存在せず、人工的に作りだすしかない。
研究成果
研究グループは医薬品や生理活性天然物の構造として広く見られる不斉炭素原子を含むキラル5員環構造に着目し、その不斉炭素原子を不斉ケイ素原子に置き換えた分子を設計、不斉合成した。
実際に、今回合成したキラルケイ素分子について生理活性を精査した結果、セロトニン受容タンパク5-HT2Bに対する顕著な結合活性を示す分子や、有意な活性が認めらない、不斉ケイ素原子の立体化学が異なる分子や置換基の異なる分子の存在が明確になった。
今後、キラルケイ素分子の構造的な特徴や、合成上の利点、生体内での動態特性を活用することで、これまで用いられて来たキラル炭素分子医薬品に変わるキラルケイ素分子の特性を活かした新しい医薬品の開発が期待される。
(画像はプレスリリースより)

九州大学 プレスリリース
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/27366/160404