再生医療の実用化に向け大きな成果
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の齋藤潤准教授グループと、大阪大学蛋白質研究所の関口清俊寄附研究部門教授グループらの共同研究チームは、細胞外マトリックスのひとつラミニン411(LM411)の組換えタンパク質断片(LM411-E8)を用いることにより、ヒト多能性幹細胞から正常機能を有する血管内皮細胞を高効率に分化誘導する手法の開発に成功した。
この成果は11月2日午前10時(英国時間)、英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
LM411、LM411-E8断片はiPS細胞から血管内皮細胞への分化を支持
今回の研究で、マトリゲル上でヒト多能性幹細胞から誘導した中胚葉系前駆細胞を、種々の細胞外マトリックス上に蒔き直し、血管内皮細胞への分化能を比較すると、他の細胞外マトリックスに比べLM411は有意に血管内皮細胞への分化を支持できることがわかった。
LM411はアルファ、ベータ、ガンマの3つのペプチド鎖が会合してできる巨大な複合タンパク質であり、そのC末端部分(E8領域)が細胞接着分子インテグリンとの結合部位として同定されている。
そこで、遺伝子工学によりLM411のE8領域のみに短縮した組換えタンパク質(LM411-E8)を作製し、LM411-E8断片は全長型LM411よりさらに血管内皮細胞への分化を促進することがわかった。
LM411-E8は、血管内皮細胞への分化増殖を修飾、賦活する因子としての作用を持つ
iPS細胞から血管内皮細胞へ至る分化誘導の過程でどの段階でどのようにLM411-E8が作用するのかをより詳細に検討するため、分化過程の細胞を1細胞単位で次世代シークエンス技術によって遺伝子発現プロファイルを解析し、個々の細胞がどのような運命を辿るのか調べた。
その結果、LM411-E8がないと中胚葉前駆細胞が種々のプロファイルを持つ細胞へ無秩序に分化するのに対し、LM411-E8を使うと血管内皮細胞の方向へ強く偏った分化をしながら増殖していることがわかった。
さらに、LM411-E8のこの作用は血管内皮増殖因子(VEGF)からのシグナルと協調して起こっており、細胞骨格に関連した細胞内シグナルであるRhoシグナルが増殖と分化という2つの現象の橋渡しをしていることも明らかになった。
正常な血管機能のある血管内皮前駆細胞への高効率な無血清分化誘導
再生医療や疾患解析に多能性幹細胞を活用する際、正常な機能のある目的細胞を高効率で高純度に得ることが求められる。
研究チームは、動物(マウス)成分を含むマトリゲルの代わりにLM411-E8と別種のラミニン組換えタンパク質LM511-E8上に播種した多能性幹細胞を、サイトカインとGSK3阻害剤の併用によって中胚葉前駆細胞へ高効率に誘導し、LM411-E8に蒔き直して血管内皮細胞を誘導する変法を開発した。
この方法は動物成分を含まず、内皮細胞の収率を飛躍的に向上させた。また、得られた内皮細胞を免疫不全マウスに移植し、生体内での作用を調べたところ、血管構造が形成され、内部にマウス由来の赤血球を観察したことから、血管内にマウスの血液が環流していることがわかった。
(画像はプレスリリースより)

京都大学iPS細胞研究所研究成果
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/