国立循環器病研究センターで開始
国立循環器病研究センター(略称:国循)研究所は2015年6月1日付けで、心臓から分泌されるホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を用いた、全国規模の多施設共同無作為化比較試験(JANP study)の開始を発表した。
国循研究所の野尻崇、山本晴子、寒川賢治らの研究グループは、実施施設の代表機関である大阪大学呼吸器外科 奥村明之進教授らと連携し、JANP studyを先進医療Bにて開始した。本研究は、保険外併用療養の特例を利用した先進医療Bの案件として全国初である。
JANP study はANPの血管保護作用によるがん転移・術後再発抑制効果を肺がん手術に応用したもので、全国10施設と協力し、500症例の肺がん患者さんを対象とした臨床研究を進めていく。
ANPの発見と働き
ANPは1984年に寒川賢治、松尾壽之(国循センター研究所名誉所長)らによって発見された心臓ホルモンであり、現在心不全に対する治療薬として臨床で使用されている。また国循研究所では、肺がん手術後想定される様々な心肺合併症を予防できること、さらには術後再発率が有意に低いという報告をしている。
がん手術時の一部の遊離がん細胞が効率良く血管に接着・浸潤してしまうことが、術後早期再発・転移の一因となっている可能性が推測されている。ANPの血管保護作用により、がん細胞の血管への接着を防ぎ、結果的にがん細胞の転移・再発を抑制していると考えられる。
ANPの「抗転移薬」としての期待
JANP studyは国循研究所が主導する臨床試験であり、500例の肺がん患者さんを対象とし、ANP投与群、非投与群の2群に分け、術後の肺がん再発率等について比較検討を行う。ANPのさらなる新しい作用・メカニズムの発見を期待するものである。
血管保護作用を応用したがん転移抑制効果、すなわち「抗転移薬」としての臨床試験は過去に前例がなく、世界初の試みとなる。血管保護によって、がん転移を防ぐという考え方は、肺がんに限らず、あらゆる悪性腫瘍に応用可能と考えられる。

国立循環器病研究センター研究所 プレスリリース
http://www.ncvc.go.jp/pr/release/007403.html