定量的かつ可逆的
東京大学大学院理学系研究科・桂嘉宏大学院生と小澤岳昌教授らは、東京大学大学院理学系研究科・黒田真也教授の研究グループとの共同研究により、ヒトのインスリン代謝などに関係するタンパク質リン酸化酵素、Aktの酵素活性の時間的な変動パターンを定量的かつ可逆的に光操作する手法の開発に成功した。
Aktは血中インスリンなどに応じて活性化され、基質タンパク質をリン酸化することにより、グリコーゲン合成、タンパク質合成、グルコース取り込みなどの細胞機能をそれぞれ調節する。糖尿病やガンといったヒトにおける様々な疾患において、その活性が異常な時間的変動パターンで上昇・下降することが知られている。
背景
近年、光感受性タンパク質を分子に組み込み、光照射で分子機能を操作する「オプトジェネティクス」と呼ばれる技術が注目されている。光による操作は、レーザーなどの指向性の高い光源を用いることで、時空間的に自在な操作が可能である一方、定量的な見積もりが困難であるという大きな問題が存在する。
研究内容・成果
共同研究グループは、作製した光感受性Aktをマウス筋芽細胞内に発現させ、細胞外から光を照射したところ、光感受性Aktが分単位の時間スケールで可逆的に活性化することが確認できた。
活性化した光感受性Aktは、Aktの基質タンパク質をリン酸化し、Aktに支配される遺伝子発現や細胞極性のなどの生命現象の誘導が確認でき、さらに、レーザー光源を用いることにより、細胞内の特定の場所でのみAktを活性化させる「空間的な操作」も可能であることが示された。
また、Aktの時間的な活性を記述する数理モデルを構築し、様々な光照射パターンに伴うAkt活性の変動を正しく予測することが確認でき、定量的にAkt活性を操作する技術開発に成功した。
今回の研究により、インスリンなどの薬剤の最適な投与量及び時間の提案や、Aktが関与する疾患発症のメカニズム解明などへの寄与が期待される。
(画像はプレスリリースより)

東京大学大学院理学研究科・理学部 プレスリリース
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/9437/