2つの立体構造を介して細胞内に輸送
京都大学大学院医学研究科・野村紀通助教、岩田想教授らは、ヒト・哺乳類において細胞内に果糖を選択的に輸送する膜たんぱく質GLUT5の立体構造を解析し、GLUT5が細胞膜において「外開き」と「内開き」の2つの立体構造を介して果糖を細胞内に輸送していることを明らかにした。
ブドウ糖や果糖などの糖分子は生命活動に必須であり、食物中の糖分子は、糖輸送体という膜たんぱく質を介して細胞内に取り込まれ、エネルギーなどへ変換される。促進拡散によって糖分子を輸送する膜たんぱく質(GLUT)は、肥満や糖尿病だけでなく、がんの細胞増殖制御にも関与していることが知られている。
2014年に、初めてブドウ糖を選択的に輸送するヒトGLUT1の内開き状態の立体構造が解明された。しかし、GLUTの糖分子との結合や、糖分子の細胞内への輸送、その際のGLUTの構造変化については明らかにされていなかった。
研究成果
研究グループは、独自技術によりヒトGLUT5と類似しているラットGLUT5の結晶化に成功し、立体構造を原子レベルで解明した。得られた立体構造は、GLUT5が外開きの状態であり、細胞の外からの果糖の流入・結合を待ち受けている構造であると考えられる。
また、ウシGLUT5を結晶化し、立体構造を解明した。この立体構造は内開きの状態で、GLUT5が細胞内に果糖を放出して輸送を終えた瞬間の構造と考えられる。
さらに、これらの立体構造を比較したところ、GLUT5の2つの部位が開閉するだけでなく、一度結合した果糖を細胞外に逃さずに効率良く細胞内に送り込むためのゲートが形成されていることがわかった。
今後への期待
今回の研究で、GLUT5と果糖が結合する部位の立体構造情報と、果糖を輸送する仕組みが明らかになったことにより、GLUT5の輸送活性阻害を行う薬剤の分子設計の指針となり、肥満や生活習慣病の予防・治療薬やがん細胞のマーカーなどの開発につながることが期待される。
(画像はプレスリリースより)

科学技術振興機構 プレスリリース
(京都大学 共同発表)
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20151001-2/index.html