Arf6シグナル伝達系を標的とした新たな抗癌剤の開発に可能性
筑波大学医学医療系・本宮綱記助教、船越祐司助教、金保安則教授らの研究グループは、国立循環器病研究センター研究所・福原茂朋室長・望月直樹部長の細胞生物学グループなどとの共同研究により、血管内皮細胞に発現する低分子量G蛋白質Arf6が腫瘍血管新生において重要な役割を果たしており、腫瘍の成長に深く関与していることを明らかにした。
低分子量G蛋白質は、細胞内に存在する分子量20~30kDaのグアニンヌクレオチド結合蛋白質であり、現在ヒトでは100種類以上同定、5つのファミリーに分類されている。これらの蛋白質は、細胞内シグナル伝達の ON-OFF を切り替えるスイッチ機能を担っている。
背景
腫瘍の成長には、血液からの酸素や栄養素の供給が不可欠である。癌細胞は、周囲の既存血管から毛細血管を新生させて腫瘍に進入させる、「腫瘍血管新生」を誘導するために様々な血管誘導因子を放出する。
したがって、腫瘍血管新生を抑制することにより、腫瘍の成長阻害を促すために、現在までに種々の腫瘍血管新生阻害剤が開発されてきた。しかし、現在臨床応用されている腫瘍血管新生阻害剤はその治療効果が限定的であり、より効果的な抗癌剤の開発が必要とされている。
研究結果
研究グループは、細胞内小胞輸送や細胞運動を制御する低分子量G蛋白質のArf6に着目し、血管内皮細胞のArf6遺伝子欠損マウスを用いた個体レベルの解析により、Arf6が腫瘍血管新生に重要な役割を果たすことを明らかにした。
また、Arf6は、癌細胞が分泌する肝細胞増殖因子(HGF)により誘導される腫瘍血管新生の制御を行っていることを見出した。
さらに研究グループは、HGFシグナルの下流においてGrp1と呼ばれる蛋白質がArf6の活性化に寄与しており、活性化したArf6は接着分子b1 integrinの細胞膜への輸送制御により、腫瘍血管新生に関与していることを明らかにした。
この結果は、Arf6シグナル伝達系が血管新生阻害剤の新たな創薬標的となる可能性を示しており、今後新規抗癌剤の開発につながることが期待される。
(画像はプレスリリースより)

筑波大学 プレスリリース
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