医薬品合成における環境負荷の低減と低コスト化へ
2015年7月3日、JST戦略的創造研究推進事業の一環として、北海道大学大学院薬学研究院教授・松永茂樹、星薬科大学薬学部准教授・坂田健らは、安価なコバルト触媒を利用し、工程も廃棄物も減らして有用分子を合成できる技術を開発した。
医薬品合成では、原料の目的位置の炭素-水素結合だけを触媒の作用でうまく活性化し、有用分子に化学変換する方法が有効である。ロジウム触媒は、希少で高価ではあるものの、優れた触媒性能を持つため産業に利用されているが、炭素源となるアリルアルコールは、そのままではロジウム触媒とうまく反応しない。
そのため、反応しやすくなるようにアリルアルコールをあらかじめ活性化処理を施す工程が必要不可欠であり、それに伴い廃棄物も多くなることも課題だった。
研究成果
研究グループは、炭素源となる化学薬品としてアリルアルコールを利用する炭素-水素結合の化学変換において、活性化処理をせずにアリルアルコールをそのまま利用するための安価な触媒の開発に取り組んだ。
周期表上でロジウムの上に位置するコバルトが安価な代替触媒になると考え、研究に取り組んだ結果、新たに開発したコバルト触媒はロジウム触媒を上回るユニークな触媒性能を示すことを見いだした。
コバルト触媒を利用すると、活性化処理したアリルアルコールを利用した反応が効率よく進行するだけではなく、アリルアルコールを活性化処理せずに利用した場合でも、効率よく反応が進行した。また、水しか出さずにアリルアルコールの炭素パーツであるアリル基を、原料の目的位置に導入することができた。
さらに、コバルト触媒がロジウム触媒を上回る触媒性能を示す要因を明らかにするため、理論計算による解析を行った結果、コバルト触媒が酸素原子と結合しやすい性質を持っており、アリルアルコールを活性化処理しなくてもコバルト触媒自体がアルコールをうまく活性化できることが分かった。
今後の展開
本研究で開発されたコバルト触媒技術は、ロジウム触媒よりも安価である点、アリルアルコールの活性化処理が不要なため工程数を削減できる点、水しか出さずに有用分子を合成できる点で、従来法よりも優れている。
環境負荷の低減やコストの削減につながり、持続可能な医薬品製造プロセス構築に貢献すると期待される。
(画像はプレスリリースより)

科学技術振興機構(JST) プレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150703/index.html