軟骨形成に必須の転写因子Sox9
2015年7月3日、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の大庭伸介特任准教授らの研究グループは、マウスの軟骨細胞のゲノム全域において、Sox転写因子の作動様式を明らかにした。
軟骨の多くは胎児期に形成されるが、成長期まで骨格の成長を調節する。更に関節軟骨として、生涯にわたって運動する際に重要な役割を果たしており、Sox9という転写因子の正しい発現によって軟骨が形成される。
ヒトでは、遺伝子変異により、骨に加えて他の臓器などにも異常を伴う、先天性の疾患の原因となることがわかっている。一方で、Sox9転写因子が遺伝子発現を制御する機構は、一部のゲノム領域において詳細に調べられていたが、その全貌は不明なままだった。
Sox9転写因子の解析内容と結果
大庭伸介特任准教授らは、南カリフォルニア大学のアンドリューマクマホン教授(Andrew P. McMahon)のグループと共同で研究を進めた。
まず、マウス新生仔から採取した初代軟骨細胞において、Sox9 に対するクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)を行い、ゲノム全域における Sox9 の結合領域情報を取得した。各種ヒストン修飾と基本転写装置の構成要素に対するChIP-seq及び網羅的遺伝子発現解析も併せて行った。
今回の解析によって、軟骨細胞ではSox9転写因子の2つの異なる作動様式、クラスIとクラスIIの存在がゲノム全域において明確になった。
クラスIでは、Sox9転写因子が間接的にDNA配列に結合することにより、軟骨細胞の基礎活動に関与する遺伝子の発現を制御、クラスIIでは、Sox9転写因子が複数のDNA配列に直接結合することにより、軟骨関連の遺伝子の発現を制御する、と示唆される。
今後への期待
軟骨細胞のSox9転写因子の位置、クロマチン状態、遺伝子発現に関するビッグデータの解析により得られた成果により、ゲノム変異がもたらす軟骨疾患の理解とその治療のためのゲノム創薬への貢献が期待される。
(画像はプレスリリースより)

東京大学工学部 プレスリリース
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2015/