腸管免疫の恒常性を保つしくみを解明
慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の吉村昭彦教授らの研究グループは、同内科学教室(消化器)の金井隆典教授らとの共同研究により、腸内の細菌叢を改善するプロバイオティクスである、クロストリジウム属細菌の菌体成分ペプチドグリカンが、免疫調節たんぱく質と免疫制御細胞を誘導し、腸炎を抑える仕組みを解明した。
腸内細菌叢の乱れや偏りが潰瘍性大腸炎やクローン病などの、炎症性腸疾患と呼ばれる消化管粘膜に炎症を生じる病気の悪化に関与していると考えられている。
これらの疾患は、厚生労働省により「特定疾患」に指定されている難病であり、就学・就労を控えた20歳代を中心に発症する。国内の患者数が約16万人を超えたことから、社会的にも大きな問題となりつつあるため、その原因の解明と治療法の確立が望まれる。
Tレグの役割と誘導
研究グループは、クロストリジウム・ブチリカム MIYAIRI588株(以下、MIYAIRI588株)を餌に混ぜてマウスに投与し、免疫の制御に重要な制御性T細胞(Tレグ)が増加することで、腸炎が抑制されることに着目した。
Tレグは広く免疫系で炎症を抑える細胞として知られており、腸内に多く存在し腸の過剰な炎症や食物アレルギーを抑えるなど、腸管免疫で重要な役割を担っている。
制御性T細胞の増加の仕組みを詳細に解析したところ、MIYAIRI588株の細胞壁のペプチドグリカンが、免疫細胞の一種である樹状細胞を刺激し、その結果、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)と呼ばれる免疫を抑えるたんぱく質の分泌が促進されることを突き止めた。
さらに、これまで明らかにされていなかった、マウス腸管樹状細胞の染色体レベルでのTGF-βの産生メカニズム(エピゲノム制御)も解明し、より効率よくTレグを誘導する方法を明らかにした。
今後への期待
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患やアレルギーに対して、ペプチドグリカンを利用した効果的で安全性が高い治療法の開発が期待される。
(画像はプレスリリースより)

慶應義塾大学 プレスリリース
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