鎮痛薬の効かない慢性痛「神経障害性疼痛」
九州大学は2014年5月12日、同大学の研究グループが、神経障害性疼痛の原因タンパク質を突き止め、そのメカニズムを解明したと発表した。
がんや糖尿病、帯状疱疹、脳卒中などで神経障害が発生すると、鎮痛薬の効果が発揮されにくい慢性痛である神経障害性疼痛が発症する。服が肌に触れただけでも強い痛みを感じる場合もあるが、これまでそのメカニズムは明らかにされておらず、効果的な治療法はなかった。
同大学大学院薬学研究院の井上和秀主幹教授らを中心とする研究グループは、神経損傷後の脊髄ではミクログリアが活性化し、それが慢性的な疼痛を引き起こしていることを明らかにしてきた。ミクログリアは脳や脊髄に存在する免疫細胞とよばれる細胞であり、細胞のはたらきを調節するタンパク質が増加すると活性化状態となる。これまでの研究から、細胞膜上のイオンチャネル受容体であるP2X4受容体がミクログリアのなかで増加し、神経障害性疼痛の発症に重要な役割をはたしていると考えられていた。
IRF5を抑制する薬剤の開発を目指す
今回、同研究グループは、神経障害性疼痛の原因タンパク質として「インターフェロン調節因子(IRF)5」を突き止めた。このタンパク質は、神経の損傷後にミクログリアのなかだけで増え、またP2X4受容体を増加させる役割ももつことを解明した。このIRF5は転写因子IRF8によってコントロールされていることも明らかにされている。すなわち、神経障害性疼痛は、神経損傷後、IRF8によってミクログリアのなかで増えるIRF5がP2X4受容体を増やすという、一連の流れによって引き起こされると考えられる。
この研究成果から、IRF5を抑制する薬剤が開発されれば、神経障害性疼痛を緩和できる可能性がある。同大学は、同研究院附属産学官連携創薬育センターにおいて、IRF5の増加、もしくはIRF5のP2X4受容体遺伝子への作用を抑制する薬剤などを既承認医薬品から探索することを検討中としている。

神経障害性疼痛の仕組みを解明~ミクログリアを「痛みモード」にかえる実行役を特定~(九州大学)
http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2014/2014_05_12.pdf