培養皿のデータと臨床試験データを照合して解析
2014年3月27日、富士フイルム株式会社と京都大学iPS細胞研究所は、3月よりアルツハイマー型認知症治療「T-817MA」の共同研究を開始したことを発表した。この研究には、患者由来のiPS細胞が使用される。
従来のiPS細胞を用いた創薬研究においては、特定の疾患患者由来のiPS細胞を疾患の標的となる細胞に分化・誘導させて、その疾患の治療薬の候補成分を探索してきたが、そこから得られるデータは実験上のものに限られてきた。今回の共同研究では、こうした基礎データをヒト対象の臨床試験のデータと照合して解析することで、最終的な薬剤開発を行うことが可能になる。
アルツハイマー型認知症とは、何らかの原因により脳の特定の神経細胞群が徐々に脱落・消失し、神経変性や脳の萎縮が引き起こされ、記憶障害や徘徊、抑うつ、妄想、厳格などの症状を呈する疾患である。また、患者の脳にはアミロイドβタンパク質の蓄積がみられるという特徴もある。
認知症治療薬の開発を加速
富士フイルムは、グループ会社の富山化学工業においてアルツハイマー型認知症治療薬の研究を行い、強力な神経細胞保護効果と、樹状突起進展促進効果をもつ「T-817MA」を見出した。T-817MAは病態動物モデルでも高い治療効果を示し、また現在、米国で第Ⅱ相臨床試験が進められ、バイオマーカーの解明が急がれている。
一方、京都大学iPS細胞研究所の研究チームは、患者由来のiPS細胞から分化させた神経細胞を用いた研究を行い、患者の原因遺伝子により神経細胞死やアミロイドベータ分泌に差があることを明らかにしている。
両者は、アルツハイマー型認知症患者由来のiPS細胞から分化誘導させた神経細胞を用い、また京都大学iPS細胞研究所の研究結果を活用して、「T-817MA」の有効性を予測するバイオマーカーの特定や、臨床試験の方法を確立させるための共同研究を行う。
富士フイルムと京都大学iPS細胞研究所は「本研究は、iPS細胞を用いてT-817MAの有効性を予測するバイオマーカーの特定を目指すなど全く新しい薬剤開発へのアプローチであり、アルツハイマー型認知症治療薬の開発を加速させる」としている。

患者由来iPS細胞を用いてアルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」に関する共同研究を開始(富士フイルム株式会社,京都大学iPS細胞研究所)
http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0860.html