世界的に高まる危機意識
細菌やウイルスなどへの感染時、有効なのが抗生物質だが、使い続けるうちに細菌の性質が変わって「耐性」を持ち、効かなくなる場合がある。近年は、抗生物質が効きにくい「耐性菌」が増え続けており、世界的に危機意識が高まっている。
(画像はイメージ、Wikimedia Commonsより Content Providers(s): CDC/ Janice Haney Carr)
抗生物質は、微生物が作った抗菌作用のあるものを精製した物質。耐性菌が増える主な原因は抗生物質の使い過ぎで、米プリンストン大学が7月に発表した研究によると、世界の抗生物質の使用量は2000年からの10年間で36%増え、特に世界最大の消費国インドで、強力な抗生物質すら効かない「スーパー耐性菌」が増えている。
世界初の抗生物質発明から80年
世界初の抗生物質「ペニシリン」が発明されたのは1928年。感染症で亡くなる人は激減し、人類を救った抗生物質は「20世紀最大の発明の一つ」と称される。それから約80年経った2010年、最も強力な抗生物質でも効かない新型のスーパー耐性菌「NDM-1(ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ1)」がニューデリーで発見されたときには、世界中に戦慄が走った。
インドの製薬業界は、124億ドル(約1.3兆円)規模で世界の抗生物質の約3分の1を製造している。抗生物質の多用で、多くの細菌が抗生物質に対する免疫を獲得。治療のために薬剤を開発することにより、多くの疾病の治療がより困難になるという皮肉な現象が起きている。
インドでは、安静にしているだけで治るような軽い病気でも、抗生物質を常用する人々が増えている。患者の要望で、抗生物質が効かない病気にも処方してしまう医師も少なくないという。
また、処方箋がなくても、一般の薬局で強力な抗生物質が購入できるのも、問題に拍車をかけている。インド政府は昨年、46種類の強力な抗生物質について処方箋なしの販売を禁止した。だが、実態は、依然として販売が続けられている。
インドの人口は12億人。専門家によると、このスケールが耐性菌を爆発的に増やし、地球規模の問題をもたらしているという。インド政府は抗生物質の製造・販売をチェックし、処方箋の記録を付け、ガイドラインを出すなどの対策を取っているものの、人々の意識が変わるまでにはまだ、時間がかかりそうだ。

日本感染症学会 多剤耐性菌情報
http://www.kansensho.or.jp/mrsa/100908ndm-2.html