47種類の医薬品と使用法示す
加齢とともに年々高くなる血圧。65歳以上になると、約60%が高血圧になるといわれる。このため、体調が変化し、それまで何の問題も無かった事柄が負担になることも少なくない。
薬についても同様で、日本老年医学会が4月に公表した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」は、高齢者が服用の中止を考慮するべき薬物のリストが含まれ、47種類の医薬品とその使用法を挙げている。
運動療法と薬物療法
日本老年医学会は1959年、第1回日本老年医学会総会の開催を機に任意団体として発足。1995年に社団法人化し、現在に到っている。
同学会は、生活習慣病、老年病領域の医療従事者、研究者・専門家で構成し、諸問題に総合的に関わっている。高齢化社会における各種疾病の医療、予防が重要性を増しており、福祉と医療の連携も視野に、海外の知見も加えて、疾患治療、病態解明、福祉の向上を目的とした先端的研究の浸透を進めている。
高血圧治療の基本は、生活習慣を改める運動療法・食事療法と薬物治療。運動療法として、運動の頻度はできれば毎日定期的に行い、運動量は30分以上、強度はややきついくらいの有酸素運動が一般的に勧められている。だが、高齢者にとって運動療法は負担にもなるため、現実には薬物治療が多くなっている。
一方、飲む薬の種類が多すぎる「多剤併用」は高齢者にとってリスクが高いとの指摘も医学・薬学界にある。年をとればとるほど腎機能が低下し、代謝・排泄が悪くなり、薬が長時間にわたって体内にとどまるため、薬が効きすぎ、体に思わぬ副作用が起きてることがあるためだ。
東大病院老年病科が入院患者2412人を対象に行った調査では、多剤併用ほど副作用が現れる率が高くなるという結果が出ている。
実際、高血圧と狭心症、脳梗塞などに対する薬として7種類の薬を処方されていた男性は、血圧が下がりすぎてふらつきを起こしていたが、飲む薬を7種類から4種類に減らしたところ、血圧が適正な数値となり、他の症状も改善したという例もある。
薬が効きすぎるリスク
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」のリスト中、血圧を下げる作用のある薬は3種類が挙げられている。
交感神経のはたらきを弱めて血管を広げ、血圧を下げたり、尿をたくさん出させて血液の量を減らし血圧を下げたりする薬品は、高齢者が利用すると薬が効きすぎる危険がある。代謝する力が落ち、低血圧を招いて立ちくらみを起こし、転倒事故につながるリスクが高いためだ。
一方、心拍数を落として血圧を下げる薬は、効きすぎると心臓以外の臓器、肺などに作用し、呼吸器疾患を悪化させるリスクが指摘されている。医療関係者は、高齢者が6種類以上の薬を服用するのは多すぎるとし、薬に優先順位をつけ、優先順位が6番目以下の薬をいったんやめて様子を見るよう勧めている。
ガイドラインは、高齢者で薬物有害事象の頻度が高く、重症例が多いことを背景に、高齢者薬物療法の安全性を高める目的で2005年に初めて作成された。今回は、このガイドラインの10年ぶりの改訂。一般からの意見募集(パブリックコメント)を経て、6月に正式決定する予定だ。
(画像はイメージ、Pixabayより)

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/