立体化学解明・作用機序解析
京都大学・掛谷秀昭大学院薬学研究科教授、吉村彩博士後期課程学生らの研究グループは、低酸素誘導因子HIFの機能を抑制する化合物として、ストレプトミセス属放線菌が生産する天然物ベルコペプチンを見出し、その立体化学の解明と作用機序に関する有用な知見を得た。
低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor:HIF)は転写因子として低酸素環境下の細胞の恒常性維持に関わる遺伝子群の発現を調節する。
HIF-1αとHIF-1βからなるHIFは低酸素環境下のがん細胞の生存や悪性化に対して中心的な役割を果たしており、中でもHIF-1αは酸素濃度依存的にタンパク質量が調節されているため、がん分子標的治療の有望な標的として注目されている。
研究成果
低酸素応答(HRE)配列の下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだレポータープラスミドを安定的に発現させたヒト繊維芽肉腫細胞を用いて天然資源ライブラリー(微生物代謝産物、生薬・漢方、海洋無脊椎動物、機能性食品など)を探索した結果、ストレプトミセス属放線菌の培養液がHIFの阻害活性を示した。
この菌の培養抽出液から、ベルコペプチンを分離し、立体化学を化学的分解実験やNMRなどの各種スペクトル解析により決定した。さらに、研究グループは、各種生化学的手法によりベルコペプチンがmTORC1(mammalian target of rapamycin complex)経路を阻害し、HIF活性を抑制することを明らかにした。
今回の研究により、天然物ベルコペプチンの立体化学が明らかになり、かつ低濃度でmTORC1経路を阻害し、HIF活性を抑制することが証明された。ベルコペプチンはHIFの過剰発現が報告されている乳がんやすい臓がんなど、固形腫瘍治療薬開発のリード化合物として利用されることが期待される。
(画像はプレスリリースより)

京都大学 プレスリリース
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/