クロマチンの動きを抑えてがんを治す
2016年3月25日、京都大学放射線生物研究センター・井倉毅准教授、古谷寛治講師、井倉正枝博士研究員、生命科学研究科・垣塚彰教授らの研究グループは、クロマチン構成蛋白質ヒストンH2AXのアセチル化が、PARP-1のADP-リボシル化活性を高めるという成果を発表した。
背景
DNA修復は、ゲノムの安定性維持に必要不可欠な生体防御システムの一つであり、DNA修復機構の破綻は、がんや神経変性疾患などの疾病を招くことがある。しかし、DNA修復は、正常細胞のみならず、がん細胞の成長にも関与しており、修復機構阻害を利用した抗がん剤が開発されている。
ADP-リボシル化酵素PARP-1は細胞核内のDNA代謝全般に関与している蛋白質で、PARP-1のADP-リボシル化活性の阻害剤Olaparibは、卵巣がん等のがんに対して抑制効果を発揮し、この効果はがんのDNA修復機能を抑制することによって得られるものだと考えられている。
しかし、PARP-1の阻害剤が、がんの修復反応をターゲットとしている根拠は明確になっていなかった。
研究成果
研究グループは、確立していた細胞内の蛋白質を生理的な状態で複合体として精製する独自のプロテオミクス法により、DNA修復酵素であるPARP-1蛋白質がTIP60と相互作用をすることを見出した。
また、TIP60ヒストンアセチル化酵素によるクロマチン構成蛋白質の一つであるヒストンH2AXのアセチル化が、PARP-1のADP-リボシル化活性を高めることを明らかにした。さらに、抗がん剤として既に使用されているOlaparibが、ヒストンH2AXを介したDNA損傷応答シグナルを抑制することを見出した。
この成果は、PARP-1阻害剤、OlaparibがDNA修復におけるクロマチンの動きを阻害することを示しており、今後、Olaparibと同様の効果を持つ抗がん剤、すなわち「クロマチン創薬」の探索・開発が期待される。
(画像は「京都大学 研究成果」より)

京都大学 研究成果
<a href=" http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/160322_1.html" target="_blank"> http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/</a>