時として命に関わる
冬場に流行する感染症として、真っ先に思い浮かぶインフルエンザ。強い感染力で、高齢者や小児患者を中心に、時として命に関わる重篤な症状に陥ることがある。
このインフルエンザを治療するために用いられる薬として、富士フイルムグループの富山化学工業株式会社(本社・東京都新宿区、菅田益司社長)がファビピラビル(商品名・アビガン)の製造販売の承認を受けたのは今年3月下旬だ。
ヒト、鳥、豚由来にも効果
細菌とウイルスは異なり、細菌は自分で増殖する力があり、1つの生命体として機能する一方、ウイルスは自分の力だけで増殖できず、宿主細胞を乗っ取ることで増殖するという性質を備えている。
今回承認されたファビピラビルは、既存の抗インフルエンザ薬と異なり、インフルエンザウイルスの細胞内での遺伝子複製に必須の酵素(RNAポリメラーゼ)を選択的に阻害してウイルスの増殖を防ぐ作用がある。
ヒト由来のA、B、C型全ての型と亜型のインフルエンザウイルスに対して効果を示す上に、鳥や豚由来を含めた各種の株に対しても幅広い抗ウイルス活性を示すことが確認されている。
インフルエンザウイルス感染症に対する治療薬は、ヒト由来のA、B型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害して、感染細胞の表面からウイルスの放出を防ぐ薬が使われてきた。
具体的には、経口製剤のオセルタミビル(商品名タミフル)や、吸入製剤のザナミビル(商品名リレンザ)、ラニナミビル(商品名イナビル)、注射製剤のペラミビル(商品名ラピアクタ)だ。
生殖への影響懸念も
ファビピラビルの承認に当たっては条件として、国内での薬物動態試験実施などが求められている。解析結果が公開され、必要な措置が講じられるまでは、厚生労働大臣の要請がない限り、製造できない。
発売後も、使用の必要があると国が判断した場合のみ、患者への投与が検討され、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう、厳格な流通管理を行うことを求めている。
また、ファビピラビルは動物などを用いた非臨床試験で催奇形性(胎児に奇形をもたらす作用)が確認されており、ヒトに対しても同様のことが起こると考えられている。
このため、妊婦または妊娠している可能性のある女性に投与できない。さらに、精液中に移行するため、男性患者への投与では、投与期間中と投与終了後7日間、性交渉時に避妊を徹底するように求めている。
富士化学工業は、アビガンに対する社会からの期待を真摯に受け止め、厚生労働大臣から製造要請があった場合に備え、流通管理と安全対策に十分留意しつつ速やかに対応ができるよう、安定供給体制を構築する方針だ。

富山化学工業ニュースリリース
http://www.toyama-chemical.co.jp/news/